
日本の伝統文化を象徴する和菓子。その美しさや繊細さに惹かれ、仕事として携わりたいと考える方は少なくありません。
しかし、華やかなイメージの裏側で「職人の世界は厳しそう」「工場勤務は体力的にきついのでは」という不安の声も聞かれます。
本記事では、和菓子職人や工場の仕事内容、働く上でのメリット・デメリット、そして向いている人の特徴まで、求職者の方が知りたい情報を網羅的に解説します。
伝統を支える仕事のリアルを知り、あなたに合ったキャリア選択の参考にしてください。
和菓子の仕事とは?職人と工場の違いを理解する
和菓子に携わる仕事は、大きく分けて「伝統的な店舗での職人」と「大規模な製造工場での勤務」の2つの形態があります。
どちらも美味しいお菓子を届けるという目的は同じですが、日々の業務内容や求められるスキル、働く環境には大きな違いがあります。まずはそれぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
伝統的な店舗や老舗での「和菓子職人」
和菓子店で職人として働く場合、仕事の範囲は非常に多岐にわたります。
小規模な店舗では、早朝の仕込みから始まり、あんの製造、生地作り、成形、そして仕上げまでを少人数で行うことが一般的です。
また、接客や販売、在庫管理、さらには季節ごとの新商品の開発まで、経営に近い視点で業務に携わることも少なくありません。
職人の世界では「見て覚える」という伝統的な修行スタイルが残っている場所もあり、一人前になるまでには数年、あるいは10年以上の歳月を要すると言われています。
指先の感覚一つで生地の状態を見極め、四季折々の風景を手のひらサイズのお菓子に表現する技術は、まさに芸術の域と言えるでしょう。
効率と品質を支える「和菓子工場」
一方、工場での勤務は、組織的な製造ラインの一部を担う仕事です。
スーパーやコンビニ、百貨店などで販売される大量の製品を、安定した品質で製造することが求められます。
工程は細かく分業化されており、材料の計量担当、機械の操作担当、検品担当、包装担当などに分かれます。
工場では、職人のような「勘」に頼るのではなく、厳格なマニュアルと最新の設備を用いて作業が進められます。
大規模な釜や自動包あん機(あんを包む機械)を使い、一日に数千から数万個の製品を仕上げる様子は圧巻です。
未経験からでもスタートしやすく、教育体制が整っている現場が多いのも工場の特徴です。
和菓子ができるまで:主要な4つの製造工程

和菓子の製造は、繊細な見た目とは裏腹に、非常に計画的でダイナミックな工程を経て行われます。
ここでは、職人の現場や工場で実際に行われている「4つの主要ステップ」を簡単に解説します。
自分がどの作業に携わりたいか、イメージを膨らませてみてください。
【ステップ1】素材の準備と「あん」作り
和菓子の命とも言える「あん」を作る、最も重要な工程です。厳選された小豆などの豆類を、大きな銅釜で炊き上げるところから始まります。
■ あん炊き: 豆の状態を見極めながら火力を調整し、砂糖を加えて練り上げます。水分の飛ばし方一つで、口当たりが大きく変わるため、職人のこだわりが詰まった作業です。
■ 生地の仕込み: 米粉や小麦粉、餅粉などを計量し、蒸したり練ったりして生地を作ります。季節や天候によって粉の吸水率が変わるため、微調整が必要な繊細な工程です。
このセクションは大きな釜を扱うため、体力が必要な「力仕事」の側面もありますが、素材が美味しいお菓子に変化していく瞬間を最も実感できる場所です。
【ステップ2】包あん(ほうあん)・成形
仕上がった生地であんを包み、お菓子の形を整えていく、最も「和菓子らしさ」が感じられる工程です。
■ 機械による成形(工場): 大規模な工場では「自動包あん機」を使用します。一定のスピードで流れるラインの上で、機械が次々と正確にあんを包んでいきます。スタッフは機械が正常に動いているか、形に乱れがないかを監視します。
■ 手作業による成形(職人): 高級な生菓子や季節の限定品などは、職人が「三角ベラ」などの道具を使い、一つひとつ手作業で花や果物の形を再現します。指先の器用さと芸術的なセンスが問われる、憧れの工程です。
【ステップ3】加熱調理(蒸す・焼く)
形が整った製品に、熱を加えて仕上げる工程です。製品の種類によって「蒸す」か「焼く」かが決まります。
■ 蒸し作業: 饅頭や団子などを大きなせいろや自動蒸し機に入れ、高温の蒸気で一気に仕上げます。ふっくらとした食感を出すためには、蒸気量のコントロールが欠かせません。
■ 焼き作業: どら焼き、カステラ、焼き饅頭などは、オーブンや専用の鉄板で焼き上げます。綺麗な焼き色(こげ目)をつけるには、緻密な温度管理と時間の見極めが必要です。
【ステップ4】検品・包装・出荷
製品をお客様へ届けるための最終段階です。品質管理の要となる工程で、非常に高い責任感が求められます。
■ 検品: 焼き色が薄すぎないか、形が崩れていないか、異物が混入していないかを厳格にチェックします。近年では金属探知機やX線検査機などの最新設備を導入している現場も多いです。
■ 包装と梱包: 個包装を施し、賞味期限を印字し、箱詰めを行います。お中元やお歳暮といった贈答品の場合は、包装紙を綺麗に巻く技術(ラッピング)も重要なスキルとなります。
どれほど美味しいお菓子が作れても、最後の検品と包装が疎かでは、お客様の信頼を損なってしまいます。
一つひとつの製品を「大切な誰かへの贈り物」として扱う丁寧さが求められる仕事です。
和菓子の仕事が「きつい」と言われる理由
和菓子の仕事に対して「きつい」というイメージを持つ人は多いですが、具体的にどのような点が大変なのでしょうか。
現場で働く人々が直面する、リアルな苦労のポイントを整理しました。
過酷な肉体労働と環境
和菓子作りは、見た目の繊細さからは想像もつかないほどハードな肉体労働です。
数kgから数十kgある材料の袋を運んだり、大きな釜であんを練り上げたりする作業は、腕や腰に大きな負担をかけます。
特にあんを炊く工程では、高温の蒸気が立ち込める中で長時間立ち続けなければなりません。
夏場の厨房や工場内は、熱気によって非常に高温になります。
スポットクーラーなどが設置されている現場も増えていますが、それでも体力の消耗は激しく、夏を乗り切るだけでも一苦労です。
また、一日中立ちっぱなしで同じ姿勢を続けることも多いため、慢性的な足のむくみや腰痛に悩まされる人も少なくありません。
早朝勤務と不規則な生活リズム
和菓子の朝は非常に早いです。
特に生菓子を扱う店舗では、開店に合わせて新鮮な製品を並べる必要があるため、午前3時や4時から作業を開始することが珍しくありません。
暗いうちに出勤し、世の中が動き出す頃には一仕事終えているという生活リズムになります。
工場の場合は交代制勤務(シフト制)を取り入れている場所が多く、夜勤が発生することもあります。
24時間稼働の現場では、生活リズムを一定に保つのが難しく、慣れるまでは睡眠不足や体調不良を感じることもあるでしょう。
また、お盆や年末年始などの繁忙期には、通常以上の長時間労働が求められることも覚悟しなければなりません。
繁忙期の圧倒的な忙しさ
和菓子業界には、明確な繁忙期が存在します。
お正月用の花びら餅、節分の豆大福、ひな祭りの桜餅、お彼岸のおはぎなど、行事ごとに需要が急増します。
この時期は、休憩時間を削ってでも製造を続けなければ注文に追いつかないほど、殺人的な忙しさになる現場も多いです。
一つひとつの作業は単純に見えても、それを何千回と繰り返しながら、かつクオリティを維持し、納品期限を守るというプレッシャーは相当なものです。
精神的なタフさと、極限状態でも丁寧な仕事を忘れない責任感が求められます。
和菓子の仕事で得られるメリットとやりがい
きつい面がある一方で、和菓子の仕事には他の職業では得られない大きな魅力があります。
ここでは、長く働き続ける人々が感じているメリットを詳しく解説します。
一生モノの専門技術が身につく
和菓子職人として身につけた技術は、まさに一生の財産です。豆の煮え具合を見極める目、生地の弾力を調整する手、季節を表現する色彩感覚などは、一度習得すればどこへ行っても重宝されます。
国家資格である「和菓子製造技能士」を取得すれば、客観的に自分のスキルを証明することも可能です。
工場勤務であっても、食品衛生の知識(HACCPなど)や大規模な生産管理の流れを学べることは、食品業界でキャリアを築く上で大きな強みになります。
効率的な動線作りや品質維持のノウハウは、どの製造現場でも高く評価されるスキルです。
伝統文化の継承者としての誇り
和菓子は単なる食べ物ではなく、日本の歴史や季節、短歌や俳句といった文学とも深く結びついています。
自分の作ったお菓子が、お茶席で楽しまれたり、家族のお祝い事に添えられたりすることは、文化の担い手としての誇りにつながります。
日本の美しい伝統を次世代に繋いでいるという実感は、日々の疲れを癒やしてくれる大きな原動力となるでしょう。
お客様の笑顔を直接、あるいは間接的に感じられる
店舗で働く場合は、自分が作ったお菓子を手に取ったお客様が「綺麗ですね」「美味しい」と喜んでくださる姿を直接見ることができます。
この瞬間こそが、和菓子職人にとって最大の報酬だと言う人は多いです。
工場の仕事であっても、自分が携わった製品が全国の店頭に並び、多くの人に愛されているのを目にするのは嬉しいものです。
「あのお菓子を作っているのは自分たちだ」という誇りが、チームの連帯感を生み出し、達成感へと繋がっていきます。
和菓子製造の仕事におけるデメリットと注意点
仕事を探す上で、ネガティブな側面も正しく理解しておくことは非常に重要です。
後悔しないために、以下のポイントを確認しておきましょう。
手荒れや身体的なトラブル
食品を扱う仕事の宿命として、頻繁な手洗いや消毒が欠かせません。
加えて、熱い生地を触ったり、水仕事を繰り返したりするため、ひどい手荒れに悩まされることがよくあります。
また、立ち仕事による腰痛や下肢静脈瘤などの職業病のリスクも伴います。自分の体のメンテナンスに気を配り、早めにケアする習慣を身につける必要があります。
給与水準とキャリア形成の難しさ
和菓子業界の給与は、他の業界と比較して決して高いとは言えません。
特に修行中の身習い期間は、労働時間に対して収入が低く抑えられる傾向にあります。
工場勤務の場合は各種手当によってある程度の収入は見込めますが、大幅な昇給を目指すには管理職への昇格や独立といったステップが必要になります。
また、職人の世界では技術習得に時間がかかるため、短期間で目に見える成果や高収入を得たいと考える人にとっては、もどかしさを感じるかもしれません。
長期的な視点で自分のキャリアを設計する忍耐力が求められます。
【比較表】和菓子職人 vs 和菓子工場
どちらの働き方が自分に合っているか比較できるよう、主な違いをまとめました。
| 項目 | 伝統的な店舗(職人) | 和菓子工場 |
|---|---|---|
| 主な仕事内容 | 全工程の製造、接客、開発 | ライン作業、機械操作、検品 |
| 勤務時間 | 早朝からの固定勤務が多い | シフト制(夜勤ありの場合も) |
| 求められるスキル | 手先の器用さ、芸術的センス | 正確性、スピード、協調性 |
| 未経験からの難易度 | 高い(修行が必要) | 低い(研修制度が充実) |
| 将来の方向性 | 独立開業、名誉職人 | 工場長、生産管理、商品企画 |
和菓子の仕事に向いている人の特徴
この仕事で成功し、長く続けていくためには、どのような資質が必要なのでしょうか。
以下の項目に当てはまる数が多いほど、和菓子の現場に適性があると言えます。
コツコツとした継続が得意な人
和菓子作りは、同じ作業を何度も、何年も繰り返すことで技術を磨いていく世界です。派
手な変化はありませんが、昨日より今日、今日より明日と、わずかな上達を喜べる人は向いています。
単調に見える作業の中にも、自分なりの工夫や改善点を見つけ出せる探究心がある人は、職場でも重宝されるでしょう。
身体が丈夫で自己管理ができる人
立ち仕事や重量物の運搬、早朝勤務など、身体への負荷が高い仕事です。そのため、まずは健康であることが大前提となります。
また、食品を扱うため、自身の体調不良が製品に影響を与える可能性もあります。
日頃から手洗いうがいを徹底し、十分な睡眠と栄養を摂るなど、プロとしての自己管理が欠かせません。
「食」への関心と誠実さがある人
自分が作るものが、誰かの口に入るものであるという責任感を常に持てるかどうかが重要です。
衛生管理を徹底し、一つひとつの工程を丁寧に行う誠実さは、技術以前に求められる資質です。
「美味しいものを届けたい」という純粋な気持ちが、厳しい現場を支える土台となります。
和菓子業界の現状と将来性
現在、和菓子業界は大きな変革期にあります。少子高齢化やライフスタイルの変化により、国内の消費量は減少傾向にあると言われてきましたが、近年では新たな動きも見られます。
一つは、海外での和菓子ブームです。
健康意識の高まり(ヘルシーな植物性食品としての注目)や、アニメなどの日本文化の影響により、欧米やアジア圏での需要が拡大しています。
輸出だけでなく、現地での製造・販売を行う企業も増えており、グローバルな視点を持つ人材の価値が高まっています。
もう一つは、デジタル技術との融合です。SNSを通じた視覚的なアピールにより、若年層の間で「映える和菓子」が人気を集めています。
伝統を守る一方で、新しい感覚を取り入れた商品開発が求められており、若い世代のアイデアが活かされるチャンスが増えています。
また、工場でも自動化やAIによる品質検査が進んでおり、働きやすさの改善も進んでいます。
失敗しない求人の選び方
和菓子の仕事を探す際、自分に合った職場を見つけるためのチェックポイントを挙げます。
・教育体制を確認する:未経験の場合は、特に研修制度や指導係の有無が重要です。
・実際の勤務時間と残業代:「朝早い」と言っても具体的に何時なのか、残業は月平均どれくらいかを確認しましょう。
・職場の雰囲気:可能であれば、工場見学や店舗の下見に行き、働いている人たちの表情を見てみましょう。
・福利厚生の充実度:社会保険の完備はもちろん、食事補助や制服貸与などの細かな条件も比較材料になります。
自分の希望する働き方(技術を磨きたいのか、安定して稼ぎたいのか)を明確にすることで、ミスマッチを防ぐことができます。
まとめ:和菓子の世界で新しい一歩を
和菓子職人や工場の仕事は、確かに「きつい」と言われる側面もあります。
しかし、それは裏を返せば、それだけ価値のあるものを真剣に作り出しているという証でもあります。
日本の四季を彩り、人々の心を満たす和菓子作りは、一度その魅力に触れれば、一生を捧げるに値する奥深さを持っています。
もしあなたが、もの作りが好きで、日本の伝統に携わりたいという情熱を持っているなら、ぜひ勇気を持って一歩を踏み出してみてください。
そこには、言葉では言い尽くせない達成感と、確かな成長の日々が待っているはずです。
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