
派遣社員として働く際、意外と分かりにくいのが「雇用保険」の仕組みです。
「実際に働くのは派遣先の会社だけど、保険の手続きはどっちでするの?」「給料から引かれる保険料は誰が管理しているの?」といった疑問を持つ方は少なくありません。
結論から言えば、雇用保険は「派遣元」で加入します。
この記事では、派遣社員が知っておくべき雇用保険の基本ルールや加入条件、メリットについて、初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。
結論:雇用保険は「派遣元(派遣会社)」で加入します
雇用保険の加入手続きや管理は、あなたと雇用契約を結んでいる「派遣元」の義務となります。
派遣社員として働く場合、実際に仕事をする場所は「派遣先」のオフィスや工場ですが、法律上の雇用主はあくまで「派遣元(派遣会社)」になります。雇用保険は、その名の通り「雇用されている労働者」を守るための保険ですので、雇用契約を結んでいる企業、つまり派遣元で加入するのが絶対のルールです。
したがって、雇用保険料の天引きや、加入手続き、離職時の手続きなどはすべて派遣元の担当者が行います。
派遣先の企業があなたの雇用保険の手続きをすることは一切ありませんし、派遣先の上司に保険の相談をする必要もありません。もし保険について不明点があれば、登録している派遣会社の営業担当や労務担当に問い合わせるのが正解です。
なぜ「派遣先」ではないのか?派遣の仕組みをおさらい
これを理解するために、派遣という働き方の「三角形の構造」を思い出してみましょう。
▼派遣社員(あなた)
▼派遣元(派遣会社)
▼派遣先(就業先企業)
この3者の関係において、あなたと「業務の指揮命令関係」にあるのは派遣先ですが、「雇用契約関係」にあるのは派遣元です。
給与を支払うのも派遣元であれば、社会保険(健康保険・厚生年金)や雇用保険の手続きを行うのも派遣元の責任となります。
派遣先企業は、派遣会社に対して「派遣料金」を支払っていますが、それはあなたの給与そのものではなく、サービスへの対価という扱いになります。そのため、福利厚生や保険の手続きに関しては、派遣先企業には権限も義務もないのです。
雇用保険に加入するための「2つの条件」とは?
派遣社員であれば誰でも自動的に加入できるわけではなく、労働時間や契約期間の条件を満たす必要があります。
派遣元で加入するといっても、登録しただけで全員が加入するわけではありません。
法律で定められた以下の2つの条件をどちらも満たしている場合に、加入義務が発生します(逆に言えば、条件を満たしているのに会社が加入させないのは違法となります)。
条件1:1週間の所定労働時間が20時間以上であること
契約書に記載されている週の労働時間が20時間以上であることが一つ目の条件です。
フルタイム派遣(週5日、1日8時間など)の方はもちろんクリアしますが、パートタイム派遣や扶養内勤務を希望している方の場合は注意が必要です。
例えば、週3日勤務で1日6時間労働の場合、週18時間となるため雇用保険の加入対象外となります。
一方で、週3日でも1日7時間労働であれば週21時間となり、加入対象となります。複数の派遣会社で掛け持ちをして働いている場合でも、合算はされません。「主たる事業所」つまり一つの派遣会社での契約だけで20時間を超えている必要があります。
条件2:31日以上の雇用見込みがあること
もう一つの条件は、雇用の期間です。31日以上継続して雇用される見込みがある場合に加入対象となります。
「2ヶ月更新」や「3ヶ月更新」といった一般的な派遣契約であれば、この条件は満たされます。
注意が必要なのは、最初の契約が「1ヶ月(30日)」などの短期契約だった場合です。
契約書上の期間が31日未満であっても、契約更新の条項があり「更新する可能性がある」場合や、実態として同様の契約の人が更新されている場合は、「31日以上の雇用見込みあり」と判断され、最初から加入手続きが必要になります。
最初から「30日限定、更新なし」と明記されている単発の仕事や、日雇い派遣の場合は加入対象外となるケースが多いですが、日雇い派遣には別途「日雇労働被保険者」という制度が存在する場合もあります。
もし加入していなかったら?未加入のリスクと確認方法
給与明細を見て雇用保険料が引かれていない場合、未加入の可能性があります。
自分は条件を満たしているはずなのに、雇用保険に入っていないかもしれないと不安になったら、まずは給与明細を確認してください。
「雇用保険料」という項目で数百円から千円程度の控除がされていれば加入できています。しかし、ここが空欄だったり0円だったりする場合は未加入の可能性があります。
「雇用保険被保険者証」を持っているか確認する
確実に加入しているかを確認する書類として「雇用保険被保険者証」があります。
これは雇用保険に加入した際にハローワークから発行される細長い紙の証明書です。通常は派遣会社が保管していることが多いですが、希望すれば本人に渡してくれますし、退職時には必ず返却されます。
手元にない場合は、派遣元の担当者に「被保険者証のコピーをください」や「被保険者番号を教えてください」と聞いてみましょう。スムーズに番号が出てくれば加入しています。
ハローワークで加入履歴を照会する
どうしても派遣会社に聞きづらい、あるいは派遣会社の対応が不誠実で信用できないという場合は、最寄りのハローワーク(公共職業安定所)に行って直接確認することも可能です。
本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)を持って窓口に行き、「雇用保険被保険者資格取得届出確認照会」を行いたいと伝えれば、現在の加入状況を教えてくれます。
万が一、条件を満たしているのに未加入だったことが発覚した場合、ハローワークから派遣会社に対して指導を入れてもらうこともできますし、遡って加入手続き(遡及加入)を求めることも可能です。
最大で2年前まで遡ることができます。
派遣社員が雇用保険に入る具体的なメリット
単に保険料が引かれるだけでなく、失業時やスキルアップ時に大きな恩恵を受けられます。
「給料から引かれるのが嫌だ」と感じる方もいるかもしれませんが、雇用保険は働く人にとって非常にコストパフォーマンスの良い「お守り」です。
具体的にどのような場面で役立つのか、代表的なメリットを詳しく紹介します。
1. 失業したもらえる「基本手当(失業保険)」
最も有名なのが、いわゆる「失業保険」です。正式には「基本手当」と呼びます。派遣契約が終了して次の仕事が決まっていない期間、生活を支えるために給付されます。
派遣社員の場合、特に重要なのが「契約満了」と「自己都合退職」の違いです。派遣契約の期間満了で仕事が終わり、本人は更新を希望していたのに会社側から終了を告げられた場合は「会社都合(またはそれに準ずる扱い)」となり、給付までの待機期間が短縮されたり、給付日数が優遇されたりすることがあります。
逆に、契約期間の途中で自ら辞めた場合や、会社から更新の打診があったのに断った場合は「自己都合」となり、給付制限期間(2ヶ月程度)が発生することがあります。いずれにせよ、雇用保険に入っていなければ1円ももらえません。
2. スキルアップを支援する「教育訓練給付金」
仕事に必要な資格を取りたい、スキルアップしたいと考えたときに使えるのが「教育訓練給付金」です。
厚生労働大臣が指定する講座(英会話、パソコンスキル、簿記、介護資格など多岐にわたります)を受講し修了した場合、受講費用の一部(20%〜最大70%)がハローワークから支給されます。
派遣社員として働きながら、将来正社員を目指すための資格取得費用を抑えることができる非常に便利な制度です。一定期間(初回は1年以上、2回目以降は3年以上)雇用保険に加入していることが条件です。
3. 育児休業中に支給される「育児休業給付金」
「派遣社員だと産休・育休は取れないのでは?」と誤解されがちですが、要件を満たせば派遣社員でも取得可能です。
そして、育児休業を取得して給与が出ない期間に、雇用保険から支給されるのが「育児休業給付金」です。
原則として休業開始前6ヶ月間の賃金の67%(6ヶ月経過後は50%)が支給されます。
これは非課税であり、さらに育休中は社会保険料も免除されるため、手取り額で考えると休業前の8割程度が保障される計算になります。この制度を利用するためには、雇用保険への加入が必須です。
4. 再就職した際のお祝い金「再就職手当」
失業保険(基本手当)を受給している最中に、運良く早期に次の仕事が決まった場合、「再就職手当」というお祝い金のようなものが支給されることがあります。
支給残日数が所定給付日数の3分の1以上残っているなどの条件はありますが、まとまった金額(数十万円になることもあります)が一気に入ってくるため、新しい生活のスタート資金として非常に助かります。これも雇用保険制度の一部です。
派遣元が変わる場合の手続きはどうなる?
派遣会社を変えるたびに、雇用保険の「資格喪失」と「資格取得」の手続きが行われます。
派遣社員の特徴として、A社での契約が終わった後、次はB社から仕事を紹介されて働く、というように派遣元が変わることがあります。この場合、雇用保険は引き継がれるのでしょうか?
雇用保険番号は一人に一つ、一生モノ
雇用保険の「被保険者番号(11桁の数字)」は、原則として一人につき一つ割り振られ、一生変わりません。A社を退職する際にA社が「資格喪失手続き」を行い、B社に入社した際にB社が「資格取得手続き」を行います。
この時、B社にあなたの被保険者番号を伝えることで、加入履歴(被保険者期間)が通算されます。
この「通算」は非常に重要です。失業保険をもらうためには「離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算12ヶ月以上あること(会社都合等の場合は1年間に6ヶ月)」という条件があるためです。
派遣会社が変わっても、空白期間が1年以内であれば加入期間は合算されます。
ですので、新しい派遣会社で仕事が決まったら、必ず前の会社で発行された「雇用保険被保険者証」あるいは番号のわかる書類を提出してください。もし番号がわからなくなっても、ハローワークで氏名や生年月日、過去の勤務先情報から検索して特定できるので安心してください。
空白期間には注意が必要
A社を辞めてからB社で働き始めるまでに期間が空いてしまう場合、その期間は雇用保険に未加入の状態となります。
もしその期間中に失業保険の申請をした場合、受給資格が決定した時点でこれまでの加入期間(被保険者期間)は一度リセットされます。
つまり、失業保険をもらってから再就職すると、加入期間はまたゼロからのスタートとなります(これを「期間の通算が切れる」といいます)。
将来の育児休業給付金などを考えている場合は、なるべく空白期間を作らずに次の仕事に移るか、失業保険をもらわずに期間を通算させるか、戦略的に考える必要があります。
社会保険(健康保険・厚生年金)との違いを整理
雇用保険と社会保険は、加入条件や管轄が異なりますが、手続き先は同じ「派遣元」です。
よく混同される「社会保険(健康保険・厚生年金)」についても触れておきます。
これらも雇用保険と同様に、手続きや加入先はすべて「派遣元」になります。ただし、加入条件が少し異なります。
社会保険の加入条件(2022年10月以降の法改正対応)
社会保険(健康保険・厚生年金)の加入条件は、会社の規模(従業員数)によって異なりますが、以下の条件を満たす場合に加入対象となります。
▼週の所定労働時間が20時間以上であること
▼月額賃金が8.8万円以上であること
▼2ヶ月を超える雇用の見込みがあること
▼学生ではないこと
以前は「週30時間以上」が原則でしたが、法改正により適用範囲が拡大されています(いわゆる「106万円の壁」に関連する話です)。
雇用保険は「週20時間以上・31日以上」ですので、社会保険よりも雇用保険の方が加入のハードルは低く設定されています。
「雇用保険には入っているけど、社会保険には入っていない(扶養内で働く)」というパターンはあり得ますが、「社会保険に入っているけど雇用保険には入っていない」というパターンは、法人の役員などを除けば基本的にはあり得ません。
よくあるトラブルと対処法:Q&A
派遣社員が直面しやすい雇用保険に関する疑問やトラブルについて、ケーススタディ形式で解説します。
Q. 複数の派遣会社で掛け持ちしています。両方で入れますか?
A. いいえ、雇用保険は二重加入できません。
雇用保険は、同時に2つ以上の事業所で加入することはできません。もしA社で週15時間、B社で週15時間働いていて、合計30時間だとしても、それぞれの会社単体では20時間未満なので、どちらでも加入できません。
もしA社で週20時間、B社で週10時間働く場合は、A社でのみ加入することになります。
A社で週20時間、B社でも週20時間働くというハードな働き方をしている場合は、より多くの賃金をもらっている方(主たる賃金を受けている方)で加入手続きを行います。この判断は自分だけでせず、両方の派遣会社に「掛け持ちをしている」という事実を伝えて相談する必要があります。
Q. 派遣会社が「最初の2ヶ月は試用期間だから保険なし」と言ってきます。
A. それは違法の可能性が高いです。
派遣契約において、更新を前提とした契約であれば、初回の契約期間が31日未満であっても(例えば1ヶ月更新であっても)、最初から加入させる義務があります。
「試用期間だから」という理由は雇用保険法には存在しません。
ただし、本当に「31日未満で絶対に終了する(更新の可能性ゼロ)」というスポット契約であれば未加入となりますが、通常の長期派遣であれば、初日から加入手続きが必要です。
担当者に「更新前提ですよね?加入条件を満たしているはずですが」と確認してみましょう。
Q. 派遣先から「直接雇用のパートにならないか」と誘われました。保険はどうなりますか?
A. 派遣元を退職し、派遣先(新雇用主)で再加入します。
派遣社員としてではなく、派遣先の直雇用(パート・アルバイト・正社員)になる場合、雇用主が「派遣元」から「派遣先企業」に変わります。
そのため、派遣元で資格喪失手続きを行い、派遣先企業で新たに資格取得手続きを行います。この場合も被保険者番号は引き継ぎますので、派遣先企業に被保険者証(または番号)を提出してください。
Q. 離職票がなかなか届きません。どうすればいいですか?
A. 派遣元に催促しましょう。それでもダメならハローワークへ。
失業保険の手続きに必要な「離職票」は、退職してから10日〜2週間程度で派遣元から郵送されるのが一般的です。しかし、手続きが遅れている場合もあります。
もし2週間過ぎても届かない場合は、派遣元の担当者に連絡してください。それでも発行してくれない場合は、ハローワークに相談してください。
ハローワークから会社へ催促してもらうことができます。ちなみに、離職票が届く前でもハローワークで求職申込み(仮手続き)だけは先に済ませておくことができる場合もありますので、窓口で相談してみることをお勧めします。
まとめ:雇用主は派遣元。まずは自分の給与明細をチェックしよう
派遣社員の雇用保険は、100%「派遣元(派遣会社)」の管轄です。
派遣先企業での仕事が忙しく、普段は派遣元の担当者と顔を合わせる機会が少ないかもしれません。
しかし、あなたの生活を守るセーフティネットである雇用保険を管理しているのは派遣元です。万が一の時に「入っていなかった!」とならないよう、まずは直近の給与明細を確認し、雇用保険料が引かれているかチェックしてみてください。
もしこれから派遣の仕事を探すのであれば、求人票を見る際に「社保完備」「雇用保険あり」といった記載を確認するのはもちろんですが、面接や登録会の段階で「週何時間の契約になるか」「初回の契約期間はどうなるか」をしっかり確認し、自分が保険に入れる条件なのかどうかを把握しておくことが大切です。
正しい知識を持つことで、安心して働く環境を整えていきましょう。


















